変形性膝関節症

疾患概要

変形性膝関節症

写真提供 pixabay

変形性関節症のなかで膝関節は脊椎に次いで2番目に多い部位です。変形性膝関節症の患者数は約1000万人とも言われ、今後社会が高齢化するに従って患者数は増加していくとみられています。変形性膝関節症には一次性変形性膝関節症と二次性変形性膝関節症があります。圧倒的に多いのは一次性変形性膝関節症です。こちらは60歳前後で発症することが多く男性よりも女性に多く見られる疾患です。40歳以上の男性の4割以上、女性の6割以上が変形性膝関節症をきたしているという報告もあります。本邦を含む東南アジア圏の方は内側関節が痛みやすくO脚(内反変形)となりやすいようです。

一方、二次性変形性膝関節症は外傷や疾病に続発して生じるものです。骨折やスポーツ外傷(半月板損傷や靱帯損傷など)のみでなく手術自体も原因となることがあります。進行は比較的早く40歳前後で末期に至ることもあります。 今回こちらでは一次性変形性膝関節症についてお話しします。

原因

「年のせい」あまり聞きたくない言葉ですが加齢は原因の一つです。しかしそれだけではなく、体重増加はもちろん、膝に負担がかかる動作などは機械的刺激として軟骨にストレスを与えます。O脚変形やX脚変形のある方は一方の関節にばかり負担を強いてしまいますので不利と言えます。軟骨破壊に惹起された炎症様反応もまた軟骨を破壊する原因の一つとなります。膝に水がたまるのもこの炎症様反応が原因とされています。近年では遺伝的要素や女性ホルモン、環境や風土なども関与していると言われています。これらのことが関連し合って軟骨の変性や摩耗が生じると考えられています。しかし現在のところ一次性変形性膝関節症のはっきりとした原因は特定されていません。予防や治療に結びつく明確な根拠は示されていないのが現状です。

症状

変形性膝関節症の初期症状は、立ち上がる時や階段の時に生じる「痛み」です。特徴としては、立ち上がりや歩き出しで痛みを感じても歩けてしまうこと、動きを中断してしばらく休むと痛みがなくなることなどが挙げられます。膝に水がたまったり(関節水腫)、さらに痛みが強くなったりして町のお医者さんへかかったとしても、初期のうちならば、湿布や痛み止め、注射、筋肉トレーニングなどでほとんど痛みがとれてしまいます。ほとんどの方が治ったと考えてしまうでしょう。このように初期においては症状の軽快が見られることで変形性膝関節症はほっとかれてしまうことが多いのです。

しかしその後も変形性膝関節症はゆっくりと進行して、また痛みは出てきます。徐々に痛みの程度が増えてきて、痛みが再び出てくる間隔も短くなってきます。膝の曲げ伸ばしも悪くなってきて正座が出来なくなります。階段での痛みがはっきりとしてきて階段を使いたくなくなります。最後には立つことも歩くこともつらくなります。動けなくなると体力も筋力も落ちて介護や介助が必要となる状態(ロコモティブシンドローム)となってしまいます。

なぜ変形性膝関節症は進行してしまうのでしょう。主に軟骨の変性や機械的・物理的負荷によって関節軟骨の摩耗がすり減ることから始まります。内側の軟骨が減るとその分太ももの骨(大腿骨)やすねの骨(脛骨)が傾きます。すると痛んだ軟骨の部分にはさらに負担が増します。この増えた負荷がさらに関節軟骨の摩耗を進めます。また摩耗した軟骨片によって関節内に炎症様反応が惹起されると、その炎症性サイトカインも軟骨摩耗を促進させます。このような負のサイクルによって軟骨の破壊は進みます。

もともと人間の体には修復する能力が備わっていますから変形性膝関節症においても痛んだ軟骨部分には修復が生じて一時軽快します。しかし、その部分に増えた負担がかかり結果的には修復が追いつかず破壊が上回ってまた痛みが出てきます。破壊は長い時間をかけて徐々に加速していきます。軟骨がなくなると次には骨まで削られ始めます。はじめの頃に効いていた湿布や注射も徐々に効かなくなっていきます。O脚も目立ち始めます。残念ながら完全に治ることはなく、長い目で見ると徐々に悪くなっていく病気なのです。

横浜市大式変形性膝関節症分類
Grade0は正常膝、Grade1、2では軟骨が減っていきGrade3では骨同士が衝突します。Grade4、5(末期)では骨がけずれて変形が著明となります。この分類は病期の進行を表わしています。世界的にはKellgren Lawrence分類が使われているが進行具合を表現するためここではあえて横浜市大式分類を掲載しました。

検査

X線画像検査、MRI、必要に応じてCTなどの検査を行います。
手術療法を受けられる方は採血検査や心電図、呼吸機能検査などの生理機能検査のほか、下肢深部静脈血栓を調べるためのエコー検査や骨密度検査、新型コロナ感染症の検査なども行います。術前には身体機能の指標として下肢筋力測定や10m歩行時間などの計測も行います。これらは術後経過をみるために手術後にも計測していきます。

治療

Ⅰ)保存的治療法(保存療法)
Ⅱ)外科的治療法(手術療法)
Ⅲ)再生医療

Ⅰ)保存的治療法

変形性膝関節症の代表的な保存的治療法には以下のものがあります。

  • 安静や減量
  • 薬物療法(内服薬、湿布など)
  • 注射療法
  • リハビリテーション(物理療法と運動療法)
  • 装具療法

それぞれについてお話しします。

安静や減量

安静は自然治癒力を最大限に発揮させる方法です。自然界でも怪我をした動物は動きません。人間だけが無理をして動き回ります。これでは治るものも治りません。鍛えて治すという考え方は時に有効ですが、基本的には安静にした方が早く痛みが減るでしょう。痛みが減ってから鍛えることをおすすめします。負担を減らすことが痛みを減らす有効な手段なのです。この観点からすると減量は膝の痛みに有効です。とは言っても体重は1,2kg減らすだけでもとても大変です。5kgも減らせれば夢のようです。でも努力しなければ減りません。ただし無理は禁物です。いつも食べているおやつをやめるだけでも違いますよ。規則正しい時間に適量食べることを心がけるとよいでしょう。出来ることを少しずつやっていきましょう。

薬物療法(内服薬、湿布など)

非ステロイド系消炎鎮痛剤が従来から使われてきました。ボルタレン(ジクロフェナクナトリウム)やロキソニン(ロキソプロフェン)など聞かれたことがあると思います。これらの系列の薬は副作用として胃腸障害が10人に1人程度に生じると言われています。腎臓で代謝されることも特徴です。近年では非ステロイド系消炎鎮痛剤による慢性腎臓病の方が増えていて警鐘が鳴らされています。当院ではカロナール(アセトアミノフェン)をメインに処方しています。可能であればオピオイド鎮痛剤も併用しております。これらは肝臓で代謝される薬です。肝障害のある方には使えません。ご不安がある方はご相談ください。

湿布剤は非ステロイド系消炎鎮痛剤の成分が配合されていて皮膚を通じて局所に浸透します。膝関節のような体表に近い部分では非常に有効です。剤形の違いから内服薬に比べると副作用が少ないと言われています。ただし貼付した場所はなるべく清潔を保ってください。またその部位を直接日光に当てないようにしましょう。湿布にかぶれる方は使用をおすすめできませんのでその旨をお知らせください。

近年サプリメントが流行していますがこれらは基本的に薬ではありません。どちらかというととても高額な食品です。おそらく医食同源の概念から摂取されている方が多いと思われます。しかし現代の医学ではサプリメントが消化(バラバラに細かく分解されること)された時点から元の組織まで体内で再構築されることは考えにくいのが現状です。もちろん未だに解明されていない原理でよい効果があるのかもしれません。実際に効果があると信じている方はそのまま続けていただいてもかまいません。ただし入院加療中は中断させていただきますのでご了承ください。

注射療法

膝関節への注射はヒアルロン酸関節内注射とステロイド関節内注射が代表的です。ヒアルロン酸は関節内の潤滑を目的に使用されます。ただしヒアルロン酸は体内に入ると分解されてしまうので関節潤滑の程度としては1週間前後でしょう。通常は週1回を計5回施行します。一方、ステロイドは強力な抗炎症作用を目的に使用されます。効果は非常に高くかなり痛みは改善します。ただし副作用もあります。ステロイドの副作用は非常に多く全身的なものから局所的なものまで様々です。注意しなければならないのは免疫低下や組織変性、骨壊死などです。ですから頻回のステロイド注射はおすすめできません。

いずれも膝関節内に注射で注入するのですが、注射療法は針穴が存在しますので感染のリスクを伴います。整形外科領域で扱う臓器は無菌臓器です。関節もその最たるもので細菌に対しては無力です。膝関節内に感染が生じると靱帯、半月板、軟骨、骨など溶けてしまいます。膝は熱く赤く腫れあがり、状態が悪化すると細菌が全身に回り高熱を出し命に関わります。ですから注射をした日は入浴を避けてください。また注射部位を汚したり、汗をかいたりすることも避けてください。通常は注射の穴は1日でふさがります。翌日からは普段通りの生活で結構です。

リハビリテーション(物理療法と運動療法)

リハビリテーションには消炎鎮痛を目的とした物理療法と直に運動機能を改善する運動療法があります。

物理療法には牽引療法、温熱療法、電気療法、水治療法があります。ホットパック、パラフィン浴、マイクロ波、赤外線療法、超音波療法などは温熱療法です。レーザーやTENS(経皮的電気神経刺激法)、低周波などは電気療法です。当院では頚椎および腰椎牽引機、温熱療法はホットパック、マイクロ波、電気療法は低周波を取り揃えております。一般的に膝周囲の痛みにはマイクロ波や低周波が用いられます。通常は週2,3回の通院で行いますのでお近くの通いやすい医院で行うとよいでしょう。人により効果が異なるため、自分にあった治療法を見つけましょう。

当院リハビリテーションスタッフ

運動療法は理学療法士のいる医療施設で受けることが出来ます。膝関節は、大腿四頭筋(太もも前面)、ハムストリングス(太もも後面)、下腿三頭筋(ふくらはぎ)の3つの筋肉に囲まれています。これらは膝関節全体の安定に重要な筋肉です。従来は大腿四頭筋を鍛えることが推奨されて来ましたが、ハムストリングスや下腿三頭筋も鍛えていただくと良いでしょう。とくに下腿三頭筋は踵上げをゆっくりと繰り返すだけで出来るので簡単です。ただし膝が痛むときは、膝の負担を減らしましょう。歩いたり走ったり深く屈伸したり階段の上り下りで鍛えることは、軟骨の減りを早めますので避けてください。膝に痛みがある時は、膝に体重がかからない形での訓練をおすすめします。膝の伸びや曲がりが悪くなり始めたら可動域訓練(伸ばしきったり曲げきったりする訓練)を入浴時や入浴後に行うとよいでしょう。手術前の時点でかなり膝の曲げ伸ばしが悪くなっている場合は、骨切り術ではなく人工膝関節置換術の適応を検討することがあります。骨切り術の選択肢を残すためには、膝関節の可動域を保っておくことが重要です。

日本整形外科学会が推奨する運動療法のパンフレットです。
ご参照ください。

装具療法

代表的な変形性膝関節症に対する装具は膝装具と足底板です。膝装具は支柱付きでストラップのあるものをおすすめします。一般的なサポーターには大腿四頭筋を軽く締めることで筋力発揮を容易にする効果と保温の効果がありますが、O脚を矯正する効果はありません。膝関節の負担を減らすためにはO脚を矯正することが重要です。足底板はO脚を矯正するために外側が高くなっているものを使います。いずれかの選択になりますがいずれにせよ使わなくなったら意味がありません。長く使えるものを選ぶとよいでしょう。

以上のような保存的療法は変形性膝関節症の初期であれば、痛みの緩和に効果があると考えられます。その方々に適した療法を組み合わせるとよいでしょう。しかしながら保存療法では、負のサイクルを止められません。保存療法を続けていても変形性膝関節症が進行してくると痛みがとれなくなってきます。やがて生活に支障が生じるほど膝が動かなくなる可能性があります。ヒアルロン酸の注射が効かなくなってきたり、階段の痛みがはっきりしてきたらかなり進行しています。このような状況になったら手術療法を検討されることをおすすめします。もちろん手術療法は早くに検討することに越したことはありません。手術を受けられるのであれば早期に手術を行うことが、長期的な予後の向上には重要になってくると考えています。しゃがめるうちに骨切り術を行えば手術後もしゃがめます。ご相談ください。

Ⅱ)外科的治療法(手術療法)

一般的には3ヶ月間以上保存的治療法が効かない場合に手術療法の選択となります。骨壊死のように著しい症状で手術療法の予後の方がよい場合は、はじめから手術療法を選択する場合もあります。

人工膝関節置換術

膝関節の根治的手術療法としては世界的に人工膝関節置換術が行われています。人工膝関節置換術は痛んだ関節面を切除し骨に金属をかぶせる再建手術です。虫歯で金歯や銀歯をかぶせることと似ています。ほとんどの方が手術後から痛む場所がなくなるので立って歩くときの痛みはすっきりとなくなります。大抵の場合、手術後に膝の曲げ伸ばしで痛みが残りますが3ヶ月間前後でこの痛みもとれます。痛みをとるには非常に優れた手術法ですが入れた金属は一生残ります。

染が生じた場合は抜く手術と入れ直す手術が必要です。入れた金属の耐久年数は15~20年であろうと言われています。金属の寿命を縮めないために重労働や激しいスポーツは制限されます。金属が破損した場合は入れ替えの手術が必要となります。また金属のデザインによりほとんどの方がしゃがむことは出来なくなります。このため床から立ち上がることは難しくなります。しかし洋式の生活であれば80%以上の満足度が得られるとの報告もあり、和室の生活からソファーやベッドの洋室の生活へ変更することをおすすめします。

当院ではしゃがめなくなった末期の変形性膝関節症の方や関節リウマチの方に施行しています。術前には心機能評価や、虫歯、歯周病などのチェックも行います。周術期には口腔内ケアも行います。少しでも長く人工膝関節がもつ様に精度の高い設置を行うため、手術ではCT不要のナビゲーションシステム を使用しております。CT不要ですので放射線被爆の心配もありません。術後に階段や坂道で膝が安定するように内側関節の伸展と屈曲のGapの差を2mm以内に調節しています。両側同日手術も対応しております。

人工関節の長所

  • 手技が簡単である
  • 術後から荷重時の除痛に優れている
  • 術後、後療法が早く入院期間が短い(2〜3週間)
  • 1週間程度で歩行訓練開始 3週間で階段昇降可能

人工関節の短所

  • しゃがめなくなる
  • 術後3ヶ月程度は膝の屈伸で軽度の疼痛残存
  • 一生金属が入る
  • 人工関節寿命を縮めないために術後の活動に制限あり
  • 術後感染症や破損が生じた場合、再置換術が必要

膝の骨切り術

膝の骨切り術をご存じですかもご参照ください。
近年膝関節の根治的手術療法として人工膝関節置換術以外に膝の骨切り術が広まってきています。膝の骨切り術は自分の関節を温存したまま、膝の流れを変えることで痛みを減らすリノベーション(再生)手術です。痛んだ関節の反対側の関節軟骨が保たれていれば施行できます。O脚の方はX脚へ膝の流れ(アライメント)を変えます。痛んだ部分にかかっていた荷重を反対側の残っている関節軟骨に担わせ、痛んだ部分にかかる負荷を軽減することで痛みを減らします。

アライメントを変えることで膝の骨切り術は負のサイクルを断ち切ります。この結果、自己の修復能が働き易くなり軟骨の修復が期待できます。厳密な意味での軟骨再生ではありませんが、再び生える意味での再生が生じます。うまくいくと痛んだ部分の軟骨は修復されます。

膝の骨切り術後の膝蓋大腿関節の様子です。右に見える膝蓋骨では術前に軟骨が消失し肌色の軟骨下骨が露出していますが、抜釘時には画面右側より白く光る軟骨で覆われ始めています。下に見える大腿骨でも同様で、この白く光って見える軟骨は軟骨の修復によって生じたものです。この軟骨は繊維軟骨と呼ばれています。露出した骨を保護してクッションの役割をしてくれます。

膝の骨切り術後の内側関節の様子です。O脚の時に最も軟骨が減る場所です。下に見える脛骨の荷重がかかる部位では、術前に軟骨が消失し、肌色の軟骨下骨が露出しています。しかし抜釘時には、画面一面に、白く光る軟骨で覆われています。肌色の軟骨下骨はもう見えません。上に見える大腿骨では、まだ軟骨下骨が残っていますが、島状に白く光る軟骨が生えており、これから修復されていくようです。

膝の骨切り術の主流はすね(脛)の骨で切り角度を変えてつなぎ直す脛骨骨切り術です。丈夫な金属板とネジで骨をとめますので手術後は1週間程度で歩けるようになります。3週間前後で階段の上り下りも出来るようになります。入院自体は3~4週間です。膝の曲げ伸ばしの痛みはほとんどありませんが、一度骨を切っていますので、骨がつくまでは脚をつくと響く痛みがあります。
骨がつくまで3~4ヶ月間かかります。骨がつくまでは退院後も2~3ヶ月間の自宅療養をおすすめします。この間に無理をして膝に負担をかけていると骨のつきが悪くなります。長い距離を出歩くことや重いものを持つこと、しゃがむ動作などはおすすめしません。しかし骨がついてしまえば生活で特に制限することはありません。手術前の生活を変えずに過ごせます。
膝の曲げ伸ばしは術前のまま残せますので、しゃがめているうちに手術されることをおすすめしています。痛んだ関節部分も残っているため動きの中で少しの痛みが出ることはありますが、その痛みがひどくなることはありません。スポーツも楽しむことが出来ます。2~3年経って筋力が増えれば走れるようにもなります。沢山動くと金属板が機械的炎症を引き起こすことがあるので1年後に金属板とネジの抜去手術が必要です。抜去手術後は翌日から歩けます。

膝の骨切り術の長所

  • 自己の関節が温存できる = 軟骨修復が期待できる
  • 術後、後療法が早く入院期間が短い(3週間程度)
  • 1週間程度で歩行訓練開始 3週間で階段昇降可能
  • 術前の膝の可動域を残せる
  • 骨癒合後は活動に制限なし
  • レクリエーションレベルのスポーツも可能

膝の骨切り術の短所

  • 骨癒合までの術後4ヶ月間は荷重時の疼痛残存
  • 退院後に2〜3ヶ月間の自宅療養期間を要する
  • 1年後に抜釘術を要する

膝の骨切り術の圧倒的利点は、術前の膝の可動域を残せることです。手術をしないでいると可動域は悪くなっていきます。残念ながら、膝の可動域をよくする手術は、基本的にありません。ですから膝の骨切り術は、膝の可動域が悪くなる前におすすめします。たとえば、農業や漁業、内装作業や配管作業など、しゃがむ動作が必要な職業では、手術後にしゃがめるかどうかは、大きな問題です。しゃがむ必要のある方は、しゃがめるうちに治しましょう。膝の骨切り術をご検討ください。

OWHTO:Open Wedge High Tibial Osteotomy(開大式高位脛骨骨切り術)

われわれが開発改良に携わった骨切り術です。変形が少なく膝蓋大腿関節(お皿の裏)が痛んでいない方に行います。早期荷重を目的に人工骨(β-TCP)を挿入します。当院では1年前後で自己の骨に置き換わるものを用いています。近年ではOWDTOと呼ばれる手法も派生しておりますがこちらは骨癒合に時間がかかることがあります。

CWHTO:Closed Wedge High Tibial Osteotomy(閉鎖式高位脛骨骨切り術)

長年われわれが取り組んできた歴史ある手法です。変形が大きく膝蓋大腿関節(お皿の裏)が痛んでいる方に行います。Hybrid Closed Wedge High Tibial Osteotomyをさらに改良して行っています。

DFO:Distal Femoral Osteotomy(遠位大腿骨骨切り術)

大腿骨側で行う骨切り術です。内反骨切りと外反骨切りがあります。外側型変形性膝関節症の場合に大腿骨内反骨切り術を行います。

DLO:Double Level Osteotomy(大腿骨脛骨骨切り術)

変形が非常に大きい場合に行う手法です。膝の状況に合わせて大腿骨外反骨切り術(DFO)とOWHTOもしくはCWHTOを組み合わせて行います。当院では大きい矯正であることからCWHTOを組み合わせています。

当院では、患者さんの膝の状態や職業、趣味、生活様式などを考えて、一人ひとりに適した術式を検討しています。しゃがめている方には基本的に骨切り術をおすすめしています。変形性膝関節症の病状がかなり進行してしまった場合は、骨切り術では十分な除痛効果が得られないため、人工膝関節置換術をおすすめします。一般的には、70歳代後半の方には人工膝関節置換術を適応することが多いですが、骨切り術を希望される場合は年齢にかかわらずご相談に応じています。

われわれは健康にはつらつと歩ける美脚、“はつらつ美脚”を目指しております。患者さんにとって最適な治療法を提供できるように、専門のスタッフを多数そろえて対応させていただいております。膝の痛みにお悩みで手術を考えている方は、是非当院までご相談にいらしてください。

Ⅲ)再生医療

変形性関節症に対する再生医療として当科では2022年6月よりAPS療法を開始いたしました。自分の血液中の抗炎症性サイトカインと成長因子を濃縮抽出して膝関節内に注射します。約1年間の除痛効果と軟骨の修復が期待されている治療法です。変形性膝関節症においては、保存療法を続けていても徐々に悪くなっていきます。やがて生活に支障が生じるほど膝が動かなくなる可能性があります。ヒアルロン酸の注射が効かなくなってきたり、階段の痛みがはっきりしてきたらかなり進行しています。従来は、このような状況になったら手術療法をおすすめしてきました。

再生医療法が施工された今、自分の細胞を使った新しい治療選択肢を提供できるようになりました。手術をためらわれている方や合併症のため手術が出来ない方、軟骨再生を期待している方に検討して頂こうと考えております。

前述したように膝の骨切り術では痛んだ関節の環境を整えます。膝の流れを変えることで痛んだ軟骨部分への負担を軽減します。ですから軟骨修復(再生)を考えるならばAPS療法は、変形した膝で行うより膝の骨切り術後に行う方が、より軟骨が再び生えることを期待できると考えております。
膝の骨切り術とAPS療法の組み合わせをご希望の方はご相談ください。

対象の診療科