interviewスタッフインタビュー

前向きに透析治療を受けられるよう、
万全の体制で腎臓病の患者さんを支える

腎臓内科 副病院長 國保 敏晴

腎臓内科では腎臓病への透析治療を中心に、腎炎などを含む腎疾患全般の診療を行っています。透析に対しては正しい知識を広めるとともに、患者さんが安心して治療を続けていけるよう多職種がサポートを実施。「腎臓病が進む前にまずは生活習慣病をしっかり改善してほしい」と強調する副病院長の國保敏晴先生に、腎臓病や透析治療の現状や腎臓内科での取り組み内容について伺いました。

腎臓病の手前にある、生活習慣病をいかに改善させるかが課題

腎臓内科で最も診療する機会が多いのは慢性腎臓病です。慢性腎臓病は生活習慣病の終着点のようなところがあり、多くの方は糖尿病性腎症や、高血圧からくる腎硬化症などを起こしています。糖尿病や血圧の管理が困難になると全身に血管病変が現れるようになり、それが脳血管なら脳卒中や脳梗塞、心臓なら心筋梗塞や狭心症、腎臓に出ると腎臓病を起こします。しかし、血管は全身つながっているので、腎臓だけ元気であり続けることはありません。腎臓内科に紹介される時にはあちこちに臓器障害が出ていて、循環器内科や脳神経内科など、他科も並行してかかる人が少なくありません。

そんな患者さんを長年見ていると、まずは生活習慣病を何とかしなければならないという考えに行き着きます。悪くなった腎臓を元に戻すのは難しいので、そうならないような生活習慣を提案しなければなりません。しかし、今の世の中は普通に生活するだけで生活習慣病になりかねない環境です。3世代で食卓を囲んだ時代と違って1人暮らしの高齢者が増え、食生活が乱れても誰も注意してくれない上、甘い物や味の濃い物がどこでも簡単に手に入る。そんな環境で生活習慣を整えるのは大変で、生活習慣病は社会病と言ってもいいでしょう。皆さん食生活に気をつけているつもりでも、栄養士が見ればひどい食生活だった、ということも少なからずあります。当科では多職種がバックアップしてできる限りの最善を目指しますが、生活習慣病が悪化する前に対処できないか、これは私たちにとって大きな課題となっています。

患者さんの状況やご希望を踏まえて、血液透析などの治療に対応

腎臓の機能が低下した患者さんに対する最終的な治療法には、血液透析と腹膜透析、腎移植の3つがあります。このうち日本では血液透析を行う患者さんが圧倒的多数です。というのは、血液透析は週3回の通院が必要であるため、何かあった時に医療者の目が早く届くからです。元々腎臓病は自己管理が難しい人に多いので、医療者がしっかり管理できる環境のほうがご本人もご家族も安心なのかもしれません。

一方、腹膜透析は自己管理が基本なので頻繁な通院は不要です。若い方や、忙しくて週3回も通えない方などには、ご自身の状況やご希望を総合的に見て腹膜透析を提案することがあります。万一腎移植を行う必要が出てきた場合は患者さんとご相談の上で医療機関を決め、その上で紹介状を書くというスタンスで対応しています。

クリニックと連携し、一緒に地域の透析患者を支える

当院では透析導入、つまり透析を開始するための処置を行っていますが、透析を始めた患者さん全員がここにそのまま通院し続けるのは困難です。その方の病状や合併症にもよりますが、透析を始めて落ち着いたら透析専門のクリニックをご紹介し、そちらに通っていただくのが一般的です。

三浦半島地域には当院と連携するクリニックがいくつかあり、私たちもクリニックに応援に行ったりする機会があります。クリニックのスタッフとは常に情報共有しながら連携していますし、ある程度は顔なじみで人間関係もできています。もしクリニックで透析を続けている間に合併症を起こして調子が悪くなるようなことがあれば、再び当院で診療することも可能です。いったんクリニックに紹介したからといって当院と疎遠になるわけではないのでご安心ください。

透析室の見学を積極的に実施し、透析に関する先入観をリセット

透析を行うに当たっては、患者さんに正しい知識を持っていただくことが不可欠です。しかし、透析患者が身近にいなければ詳しく知る機会がなく、逆に、身近な人が透析を受けている場合はその人の例しか知らなかったりします。毎回苦しい思いをしていると聞けば透析に悪印象を抱き、逆にその人の透析がうまくいっていれば良い印象を持つでしょう。

透析に対する不安や恐怖が大きく、「透析になったらもう終わり」「絶対に透析はしたくない」と言う人も少なからずいます。でも、悪化して体に毒素がたまる尿毒症を起こしたり、むくみや腹水、胸水がたまったりして救急車で運ばれるような事態になると、結局は透析せざるを得ないことがあります。それで苦しみから解放されると透析のありがたみを分かってもらえるのですが、本来は苦しむ前に透析を始めてほしいところです。

そのためには透析への先入観をリセットし、正しい知識を持っていただく必要があります。そこで当科では、透析を予定している人に実際の血液透析の雰囲気を見学してもらう機会を積極的に作っています。状況によっては看護師から腹膜透析や腎移植に関する情報も提供しますので、治療への不安があれば早めに解消していただきたいと思います。

透析を受け、本来の寿命を超えて暮らす患者さんを見守っていきたい

「肝腎」という言葉の通り腎臓は重要な臓器の1つで、体内の毒素を排泄したり、ミネラルのバランスを調整したりする役割を持っています。つまり、腎臓が機能しなくなると体に毒素がたまって血液が酸性化し、体は寿命を迎えてしまうのです。

ところが、現在は透析という手段によってそれを回避できるようになり、慢性腎臓病だけが直接の原因で寿命に関わることは少なくなってきました。腎臓が悪くなると体に水分がたまってむくみ、苦しむ人が多いのですが、透析を受ければそうした症状も劇的に改善します。透析によって患者さんが活き活きと過ごしている様子を見ると、医師としてやりがいを感じますね。

腎臓病の食事療法は難しいからこそ、病院でアドバイスを受けることが大切

世の中には健康に関するさまざまな情報が出回っています。糖質フリーのような食事療法や、健康食品、サプリメントなどについて自分で調べて試してみる方も多いようです。しかし、必ずしも効果があるとは限らず、むしろ害になることも多々あります。例えば、糖質フリーの食事ではタンパク質や脂質が中心になりますが、腎臓病の患者さんはタンパク質を制限しなければなりません。腎臓病が進んだ段階でタンパク質を多く摂取すれば、かえって腎臓に負荷がかかってしまいます。

インターネットで聞きかじった食事療法を自己流で試すことには危険を伴います。腎臓病の食事療法は特に難しいので、試したいことがあればまず私たちに相談していただくことをお勧めします。

病気が進行する前の、「未病」の段階で受診してほしい

外来で患者さんとお話する時間は限られていて、まとまった時間を作って詳しい説明をするのは難しいところがあります。そこで皆さんにご案内しているのが、腎臓内科で実施している「腎臓病教室」です。栄養士や理学療法士、看護師、医師などの多職種がそれぞれの立場からお話しし、腎臓病への理解を深めていただいています。 私は「未病」や「予防医学」に興味を持って診療しています。なぜなら症状がひどくなってから病院を受診する方が多いからです。でも、本当はもっと早いうちに手を打ってほしい。生活習慣病の末期の方を多く見てきた立場から切実にそう願っています。大事に至る前に、少し気になり始めた時点で相談していただけると嬉しいですね。

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