interviewスタッフインタビュー

糖尿病ケアチームが一丸となって
血糖コントロールに注力

内分泌・糖尿病内科 診療部長 土屋博久

糖尿病は自覚症状がなく、生活改善に努めても効果を実感しにくい病気です。内分泌・糖尿病内科では多職種からなる糖尿病ケアチームが専門知識を活かし、生活指導を含む関わりを強化。血糖コントロールのためにどんな取り組みを行っているのか、診療部長の土屋博久先生に伺いました。

患者さん個々の状態に応じ、糖尿病への栄養指導・薬物治療を行う

内分泌・糖尿病科で診療する病気のうち、約9割を占めるのが糖尿病です。一口に糖尿病といっても、患者さんの状態や治療内容にはかなり幅があります。まだ初期でそれほど重度ではない段階なら、すぐに薬物療法を始めるより栄養指導から行うのが基本です。初診の患者さんには必ず管理栄養士が栄養指導を行いますが、糖尿病看護認定看護師が生活指導をして様子を見ることもあります。血糖値が高い場合はインスリンの外来導入も可能ですし、状況によっては入院しながら教育を兼ねて治療を行ったりします。

糖尿病では足に病変が現れることがあるため、週1回、フットケア外来も開設しています。この外来で処置を希望されるのは足に何らかの所見がある方で、院内他科だけでなく院外からも紹介患者がいらしています。

なお、当科では糖尿病診療がメインではありますが、バセドウ病をはじめとする甲状腺疾患の患者さんも多数受診されています。内分泌疾患に関しても一通りの診断・治療をしっかり行える体制を整えています。

多職種による「糖尿病ケアチーム」が専門性を発揮

当科にかかる患者さんには30代、40代の比較的若い世代も見られますが、多くの方はご高齢です。この辺りは漁業や農業に従事する方が多いこともあって皆さんお元気で、お酒をよく飲んだり、好きな物を好きな時に食べたりする人も少なくありません。しかし、食生活などの生活習慣を改善するべきだと分かっていても、すぐに何もかも変えるのはまず無理です。ですから一つひとつゆっくり説明し、理解していただくことも治療の1つと考えています。

糖尿病の患者さんとはなるべく時間をかけてお話しするよう努めていますが、医師の力だけで生活指導まで行うのは大変です。そこで当科では医師や看護師、管理栄養士、薬剤師、リハビリテーション担当など、多職種が「糖尿病ケアチーム」としてサポートしています。このチームは糖尿病教室や教育入院、院内向けの勉強会、11月14日の世界糖尿病デーに向けたイベントなども担当しています。看護師や管理栄養士、薬剤師の中には糖尿病療養指導士の資格を持つ人もいて、専門知識を生かして積極的に活動しています。

このチームは患者さん向けの勉強会である「糖尿病教室」にも関わっています。糖尿病教室は1回定員6名で隔月開催としており、コロナ禍を経て最近ようやく再開しました。参加者は前向きな方が多く「参加して良かった」と皆さんおっしゃいます。ただ、参加してほしい方に限ってなかなか参加してもらえないことがあり、どう参加を促すかは今後の課題ですね。現状では外来でお会いするたびに少しずつお話しして、生活改善に向けて理解を深めていただけるよう努力しています。

教育入院を経験し、血糖をうまくコントロールできるようになる人もいる

糖尿病教室の長いバージョンのような位置づけで、糖尿病の教育入院も行っています。そこでは病棟の看護師、薬剤科や検査科などの多職種が、12日間にわたってみっちり実践的に指導しています。教育入院を体験した患者さんの中には、考え方が180度変わったという方もいます。外来でなかなか血糖値をコントロールできなかった人がうまく管理できるようになることもあり、効果を感じますね。

以前、かねてから教育入院をお勧めしていた患者さんが「白内障の手術を受けなければ運転免許が更新できない」とおっしゃって、踏ん切りをつけて教育入院されたことがありました。入院中に状態が安定するのは当たり前ではありますが、何か思うところがあったのでしょう、その方は退院後もずっと良い状態を保てるようになりました。結局、無事に白内障の手術を終えて免許も更新できたそうですが、そんなふうに大きく変わる方が時々います。そんな時は私たちも、あきらめずに入院をお勧めして良かった、良い方向に変わってもらえて良かったと思います。

教育入院はここ2、3年、コロナ禍で実施が難しくなったので、この機会に運用の仕方を見直し、2022年4月から新たなやり方で再開しました。入院すると新型コロナ感染の恐れがあるのではないかと敬遠されるかもしれませんが、感染対策はしっかり行っています。教育入院の必要がある方はぜひ前向きにご検討ください。

糖尿病は症状がなく、生活を改善しても“やった感”を得にくい

糖尿病が進んで合併症を起こすと失明や下肢切断などの恐れがあると言われ、そのことについては皆さん知識としては持っているようです。しかし、自覚できる症状がなければ他人事と思ってしまうのか、血糖値が高いと言われても受診につながらないようです。悪化してから受診された方にお聞きすると、「何年も前から健康診断で指摘されて受診するように言われたけど、症状がなかったから」とおっしゃる方がほとんどです。本来は糖尿病になる前に生活を改善することが大切ですが、どうすれば受診する行動を起こしてもらえるか、その答えはなかなか見つかりません。

また、患者さんが努力しても、それに見合った変化を実感できないのも難点です。頑張っても“やった感”がないので、余計に生活を変えるのが大変なのだろうと思います。その点、内分泌の病気はまったく逆で、変化を感じやすいという特性があります。例えばバセドウ病はかなり強い症状が出ますが、回復すると本人にも目に見えて変化が分かり、症状も楽になります。その点は糖尿病とかなり違いますね。

糖尿病治療薬に関する情報を常にアップデートし、患者さんに発信したい

この10年ほどの間に、さまざまな種類の糖尿病治療薬が使われるようになりました。今度も新しい薬が出てくる見込みで、注射製剤も増えるだろうと思います。数年前に超超速効型のインスリン製剤が出ましたし、数年後には週1回だけで済むタイプも使えるようになると言われます。現在GLP-1受容体作動薬がよく使われていますが、これにプラスαが加わったGIP/GLP-1受容体作動薬という新しい薬もすでに承認され、来年あたり発売されるのではないでしょうか。こうやって薬剤の種類が増えると治療の選択肢が増えるわけですから、患者さんにとっては嬉しいことだと思います。

同時に、私たちは新しい薬について患者さんに分かりやすく説明するために、しっかり知識をつけなければなりません。なぜその薬が開発されたのか、どのような効果が期待できるのか、副作用はどうかなど、現在はさまざまなデータが出ています。これまでは詳しい情報を伝える場があまりなかったので、今後は患者さん向けの教室などを活用して発信できればと思っています。

血糖値に異常が現われたら早めの受診を

現在の健康診断では空腹時血糖を測りますが、その方法では初期の糖尿病が引っかかりにくいという問題があります。空腹時よりも食後の血糖値のほうが先に上昇しやすいので、初期のうちは空腹時血糖で異常なしと判定されやすいのです。そのため、初期の糖尿病を拾い上げるためには食後の値を測るほうがいいのではないかと指摘する医師もいます。ただ、それでも受診につながるかどうかは別問題です。

いずれにせよ、健康診断で引っかかったり、かかりつけ医から数値が高い傾向があると言われたりしたら早く受診してほしいですね。症状がなくても構わないので、数字に異変が現れたら1回病院にお越しください。

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