interviewスタッフインタビュー

他職種がチームで関わり、急増する心不全への対応を強化

循環器内科 診療部長 坂 賢一郎

循環器内科では主に心不全や心筋梗塞・狭心症などの病気を診療しています。最大の強みは、急性期の患者さんへの緊急カテーテル検査・治療を常に実施できる体制を備えていること。心不全を繰り返さないための対策や多職種によるチーム医療の特徴について、診療部長の坂賢一郎先生にお聞きしました。

重篤な状態だった人が元気になる、循環器内科ならではの治療に興味を抱いた

私が医師を目指すきっかけになったのは、中学生の時に祖父を亡くしたことでした。それまで身近にいたのは健康な人ばかりで、私にとって病院はほぼ未知の場所でした。祖父の入院や手術を機に医療にかかる人を見て、病気の人を少しでも良い状態で自宅に返してあげるような仕事に就けたらと思ったのです。

循環器内科は急性期の対応が多い診療科です。しかし、心筋梗塞や心不全などで運ばれた患者さんでも、初期治療や入院中の加療が順調に進めば元通りの生活レベルに戻れることがよくあります。かなり苦しんで入院した方が元気になって帰る様子を見て循環器内科に関心を持ち、この道に進むことにしました。

24時間365日、緊急カテーテル検査・治療を迅速に行う体制が強み

当科で入院される方に多いのは心不全で、次いでよくあるのが狭心症や心筋梗塞など冠動脈血管の病気です。救急車で運ばれるような急性心筋梗塞や急性心不全の場合は、緊急カテーテル検査・治療を行う必要があります。当科の強みは、そのような状況下で迅速に対応できること。循環器内科には常勤の医師が8名いますが、24時間365日、当直体制もこのメンバーで組んでいるので、常に速やかにカテーテル検査・治療を実施できるのです。

一方、当院では循環器の外科には対応していないので、外科的な治療が必要な時は近隣の医療機関にご紹介します。同じ系列病院である横須賀市立うわまち病院の医師とZOOMで2週間に1回はカンファレンスを行うなど、近隣の医師とは頻繁にコミュニケーションを取って連携しているのでご安心ください。

心不全リスクを軽減するために栄養指導を重視

横須賀地区では高齢化が進んでいます。私は当院で経験を積んだ後、藤沢市の病院でも診療して再び戻ってきたのですが、その3年の間にも患者さんの年齢層が少し上がった気がするほどです。実際、心不全で入院する方の平均年齢は80歳程度と高く、高齢の患者さんに対する診療が中心になってきました。

高齢になると高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を複数持つ方が多いのですが、これらは心不全の好発リスクに該当します。開業医の先生方がしっかり診ていても、このような持病があると一定数は心不全を起こすのです。心不全を防ぐには食事などの生活指導が重要ですが、外来ではどうしても時間が限られます。そのため食事を気にしている方には、原則1度は栄養指導を受けていただきます。すると最初は「栄養指導なんていらない」と言っていた人も「受けて良かった」「意外とためになった」とおっしゃいます。栄養指導は心不全で入院した方にとっても必須なので、入院後はほぼすべての患者さんに指導を受けてから退院していただいています。

コメディカルを中心とした「心不全チーム」で患者さんを支える

心不全の患者さんが増加している現状を鑑み、2021年、循環器内科では「心不全プロジェクトチーム」を発足させ、心不全で入院する方への対策を強化してきました。このチームは循環器内科の医師と慢性心不全看護認定看護師、心不全療養指導士、リハビリテーション療法科の心疾患チーム、薬剤師や栄養士、さらに地域連携の看護師など多職種で構成されています。このチームで入院中から退院、場合により緩和ケアまで一連の流れを担っています。

多くのチーム医療は医師主導になりがちですが、心不全チームは慢性心不全看護認定看護師を中心にコメディカル中心で運用するというコンセプトで開始しました。コメディカルの意思を尊重し、医師はサポートするというスタンスでやっています。この体制によってコメディカルが取り組みたいこと、気になっていることを発言しやすくなり、風通しの良い状態でチーム医療を実践できていると感じます。

2度目、3度目の心不全を防ぐために「心不全外来」を開設予定

心不全において重要なのは2回目、3回目を防ぐことですが、医師の外来だけで予防まではカバーしきれません。それに患者さんにとっては、外来で医師に言いにくいこともあるでしょう。この解決策として、心不全療養指導士を持つ看護師を中心とする「心不全外来」を始めたいと考えています。医師の外来で薬の処方などを行うと同時に、心不全で入院歴のある患者さんには心不全外来も受診していただき、退院後の日常生活で困っていることなどについて相談に乗る予定です。

例えば、日常生活動作(ADL)が下がって支援が足りない、入院中に行ったリハビリテーションを外来でも受けたい、家族にも栄養指導を受けさせたいなど、退院後の患者さんはさまざまな要望を抱いています。そこにコメディカルが関わっていくわけです。実際に、多職種が退院後のケアをしっかり行うと再入院率が下がるというデータもあります。この体制を整え運営していくのは大変ですが、2023年4月に立ち上げるべく準備しているところです。

教育入院により心不全への理解を深めてほしい

心不全を避けるためには患者教育が欠かせません。その1つとして私たちが考えているのが心不全の教育入院です。これは一部の病院ですでに始まっている予防的な試みで、心不全になる可能性が高い患者さんに教育目的で入院していただき、心不全になりにくい生活を学んでもらうものです。例えば、入院中に減塩食を体験すると、普段の食事がいかに体に良くない内容だったか分かります。病気について医師から説明する時間をしっかり設け、看護師や栄養士による生活指導、リハビリテーション担当者は機器を用いて心肺機能の程度を調べるなど、2泊3日のカリキュラムを組んで進めます。これも2023年度中に、心不全外来の立ち上げに続いてスタートする方向で予定しています。

回復した患者さんが元気に帰って行く姿を見るのが喜び

私が医師としてやりがいを感じるのは、心筋梗塞の患者さんが回復してお帰りになる時です。以前、心筋梗塞で運ばれた50代の患者さんに緊急カテーテルを行おうとしたら意識を失い、電気ショック後に再びカテーテルを行ったことがあります。その方は心肺機能も悪く、人工呼吸器やPCPS(経皮的心肺補助装置)、今でいうECMOが必要なほど重症でしたが、治療の甲斐あって元の生活に戻ることができました。この患者さんに限らず、同じような例はよくあります。急性期の治療は私たちもエネルギーを費やしますが、治療後の患者さんが元気にお帰りになるのは何より嬉しいことです。

一つひとつの治療を丁寧に積み重ね、患者さんの回復につなげたい

私は若い医師に対して「しっかり診療することで元気に帰れる患者さんがいる、だから興味があれば循環器内科で一緒にやりましょう」と話しています。患者さん一人ひとり、その時その時を大事にして、いま何が1番必要かを考えてベストを尽くす。この積み重ねが患者さんの回復につながります。そうやって患者さんと向き合うことを大事にしたいですね。

循環器の病気では息切れや呼吸苦、胸痛、動悸、むくみなどの症状がよく見られます。循環器の病気かどうかが分からない状態でも構わないので、これらの症状があれば一度お越しください。当院は敷居が決して高くない病院ですし、循環器内科では必要な検査・治療に一通り対応しています。気になる症状があれば早めにご相談いただければ幸いです。

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