interviewスタッフインタビュー

変形性関節症の手術手技にこだわり、
いつまでも元気に歩ける膝を目指す

関節外科 診療部長 石川 博之

関節外科では変形性膝関節症への骨切り術や人工関節置換術を主として、全身の関節の病気を診療しています。中でも骨切り術については全国有数の実績を持ち、多数の患者さんを受け入れてきました。「地域の方々にずっと元気に歩いてほしい」と話す診療部長の石川博之先生に、手術手技へのこだわりや診療に対するお考えについてお聞きしました。

関節の手術を進化させたい、この思いが現在につながっている

私は整形外科医になった頃から変形性膝関節症への「骨切り術」に携わり、現在もそちらを中心に診療しています。この術式に関わるようになったのは、骨切り術の大家である教授(腰野教授)の指導を受けたことがきっかけでした。

その頃は人工膝関節置換術一色で、骨切り術は伝統芸能などと呼ばれていた時代。今と比べると当時の骨切り術は大変で、固定材料の強度に問題があって手術後はギプスを巻かなければならず、3カ月近い入院が必要でした。もっと骨切り術を良くしたいという思いがふつふつと湧き、他の先生方とともに骨切り術の開発や改良に取り組んだこともあります。ああでもない、こうでもないとアイデアをぶつけ合ったのはこの上なく楽しい時間でしたね。

こだわりを持って変形性膝関節症の手術を実施

当科では関節の病気に特化し、より最新で、より濃い内容の治療を患者さんに提供していると自負しています。中でも圧倒的に患者さんが多く、且つ得意とするのが膝の病気で、軟骨が減って起こる変形性膝関節症を主に診療しています。変形性膝関節症への骨切り術に関しては全国でも名が通っているほどの技術や実績があり、こだわりを持って治療に臨んでいます。もちろん骨切り術だけでなく人工関節置換術も多数行っていますし、一般的な骨折や外傷、腰椎の病気、手の外科も診療しています。
私たちが大切にしているのは、常に患者さん一人ひとりに特化した問題点を見極め、それを解決するためのプラスαを必ず考えていくこと。治療がうまくいくと患者さんが喜んでくださる、その瞬間が一番嬉しいですね。

痛みがあれば我慢せず、悪化する前に受診を

変形性膝関節症は軟骨が破壊されて起こりますが、多くの場合、原因となるのは体重などによる軟骨への機械的刺激です。例えばO脚の人なら、内側にある関節の軟骨に重みという負荷がかかります。これに対しては市販薬や湿布、リハビリテーションや装具、注射などさまざまな対処法がありますし、人間の体には修復しようとする能力があるので傷んだ軟骨は修復されます。しかし、体重によって膝にかかる負担のほうが大きいと修復がなかなか追いつきません。O脚の場合は長い時間をかけて軟骨が破壊されていくので、薬で痛みが取れたとしても治ったわけではなく、痛みが減っただけにすぎないのです。

軟骨は一生かけてどんどん減っていきます。そのため、膝が少し痛み始めた最初の時点が手術のやりどきと言ってもいいのかもしれません。でも、現実的には、注射を打っても痛みが取れなくなった、膝が曲がりにくくなった、そのようなターニングポイントが手術のタイミングになるかと思います。そこを我慢し続けて悪化してしまう例を、私たちは日々経験しています。

しゃがむ動作ができるうちに治療すれば、自分の膝を残すこともできる

膝の根治的な手術療法は、現在のところ人工関節置換術と骨切り術のどちらかしかないというのが私の持論です。どちらにするかは患者さんのニーズや状況、社会的背景などを加味して決めます。骨切り術では抜釘術が必要なことがあるので、体力的に2回手術するのが厳しい時は人工関節を選ぶ場合があります。逆に、高齢でも活動性が高い方には骨切り術をお勧めすることもあり、あくまでも患者さんの状態によります。

ただ、人工関節置換術は、どの医療機関で受けても“しゃがむ”動作ができなくなるという共通認識があります。手術前は痛くてもしゃがめていた人が、人工関節になるとその動作が難しくなるのです。手術後もしゃがみたいという患者さんの思いに応えるために、私たちは頑張って骨切り術を行ってきました。しゃがむ動作ができる人は、骨切り術なら手術後も自分の膝を残したまましゃがむことができます。私の恩師が「人工膝関節置換術は膝の切断術であるため最後の手術とするべき。骨切り術で膝関節を温存するべきだ」とおっしゃっていましたが、やはり自分の膝を残せるというのは大きなことです。そのためにはしゃがむ動作が可能なうちに手術を検討していただきたいと常々思っています。

新たな治療の選択肢として再生医療「APS療法」を導入

2022年6月から変形性膝関節症に対する再生医療の1つ、APS療法を始めました。この治療を当院に導入してまだ数カ月ですが、実際に受けた患者さんの多くは、「想像以上に痛みが取れた」とおっしゃいます。私たち医師は手術によって治すという意識が強いせいか、「この状態の膝でも痛みが取れたのか」と驚くことがあります。

三浦半島では農業や漁業に従事する方が多く、簡単に仕事を休んで受診できないこともあると思います。痛いのに無理して体を動かしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。保存療法がなかなか効かない、でも手術は厳しいという方にとってAPS療法は新たな治療の選択肢となるだろうと考えています。

ただし、APS療法はまだそれほど普及しているわけではなく、どの医療機関でも受けられる治療ではありません。自己負担なので費用もかかります。希望される方とはよく説明した上で行いますので、関心のある方はお気軽にご相談ください。

膝の痛みを“年のせい”とあきらめ、放置しないでほしい

痛みがあるとその周囲の筋力が落ちるので、膝が痛むと太腿の筋肉は減ってしまいます。それを防ぐには、治療後に痛みが取れた時点からきちんとリハビリすることが大切です。しかし、痛みが取れたら「治った」と思って何もしなくなってしまう、そこが問題です。手術後のような急性期だけでなく、予防のためのリハビリも大事にする必要があります。

加齢のために膝が劣化していくのは治しようがありません。例えば、膝の半月板という組織にはゴムのような弾性がありますが、これが劣化して柔らかくなっていく変化を止めることはできないのです。でも、軟骨が減って何か障害が出て初めて魔耗が始まるので、その起点となるところに対応するのがコツだろうと思います。といっても、がむしゃらに筋力をつければいいわけではありません。登山やマラソンのような膝への衝撃が強い訓練をすればかえって膝を悪くすることもあります。当科では患者さんの生活環境や膝の状況を鑑みて予防的な観点からもアドバイスできるので、膝の痛みは加齢現象だとあきらめないでください。

地域の方々に元気に歩いていただきたいから手技を磨く

私たちは骨切り術の中でも、手技が少し難しい方法を主に行っています。膝の皿の裏が傷みにくく、より良い方法を追求した結果なのですが、この方法をよりスマートにできるようにしたいと思っています。若手の医師とともに骨切り術のさらなる進化に携わり、現在行っている手技をより良いものへと高めていきたいですね。

変形性膝関節症は進行していく病態なので、歩き始めや立ち上がり、階段昇降などの動作に違和感が出てきたら要注意です。当院では、軟骨を長持ちさせ、傷むのを先送りにするためにできることをアドバイスしています。痛みを我慢してつらい生活を続けないで、皆さんには元気に歩いていただきたい。それが一番の願いであり、そのために私たちがいます。再生医療のAPS療法という選択肢も増えましたし、痛みがあっても何らかの形で減らすように考えますので、痛みが出たら早めにいらしてください。

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