乳癌

疾患概要

乳房にできる悪性腫瘍の代表格が乳癌です。今や日本人女性の約10人に1人が罹患すると言われ、女性が最もなりやすい癌と言えます。乳房悪性腫瘍としては典型的な乳癌以外にも、パジェット癌、悪性葉状腫瘍(ようじょうしゅよう)等がありますが、これらは非常に珍しいものです。

原因・症状

ほとんどの乳癌には遺伝性がなく、偶発的に発症すると言われています。日本では乳癌患者さんの約5〜10%がBRCA1またはBRCA2遺伝子の異常による、いわゆる「遺伝性乳癌」と言われていますが、これらは基本的に少数派と言えます。
自覚症状としては「乳房にしこりが触れる」ことで外来受診される方がほとんどです。稀な症状として乳房の痛み、血性乳汁分泌で発症する乳癌もあります。また、初期の乳癌は症状を認めないため、乳がん検診で異常を指摘されたことがきっかけで、乳癌が発見される患者さんも多くいます。

検査

マンモグラフィー(乳房を挟んで撮影するレントゲン撮影のこと)、乳房超音波検査(乳房エコー検査)、胸部CT検査(コンピューター断層撮影)、乳房MRI検査(磁気共鳴画像診断)、骨シンチグラフィー(骨転移の有無を確認するためのアイソトープ検査)などを駆使して癌の広がりや、転移の有無を確認していきます。また、確定診断には細胞、組織採取による病理学的検査が必須であり、針組織生検(※1)、吸引細胞診、吸引組織生検などを行います。

治療

乳癌の標準治療とされるものは①手術、②化学療法(抗癌剤や分子標的薬(※2)による治療)、③ホルモン療法、④放射線治療の4つです。

化学療法

いわゆる抗癌剤治療のことですが、現在では分子標的薬が効きやすい乳癌、効果がない乳癌を鑑別することができ、前者に対しては積極的に分子標的薬を含む化学療法が行われています。また、投与時期で区別する場合は「術前化学療法」と「術後補助化学療法(※5)」とに分けられます。前者は手術の前に化学療法を行うことで、癌を小さくし、乳房温存術を目指したり、根治性を高めたりします。術後に行う化学療法の目的は「今後起こる可能性のある、再発や転移の確率を低減すること」であり、再発リスクの高い患者さんにのみ行われます。

ホルモン治療

乳癌の約70%がホルモン依存性(※6)乳癌と言われており、多くの場合組織による確定診断時にホルモン依存性の有無が分かります。ホルモン依存性乳癌の患者さんのほとんどは補助療法としてホルモン療法を行うことになります。多くの場合、5年間の治療となりますが、特に再発リスクが高いと見込まれた患者さんに対しては10年間投与が行われることもあります。

放射線治療

その名の通り、放射線を照射することで癌細胞を攻撃する治療です。乳癌手術の場合は、乳房温存術後に残った乳腺から再発する、いわゆる局所再発の確率を低減する目的で用いられます。また、リンパ節転移を認めた場合はリンパ節再発の確率を低減するためにも行われます。

※1) 生検(せいけん):「生体検査」の略であり、「生体の一部を針やメスなどで採取して顕微鏡で検査する」ことです。乳癌に限らず、癌の診断に必須の検査となります。

※2) 分子標的薬(ぶんしひょうてきやく):癌細胞だけでなく正常の細胞も攻撃してしまう抗癌剤と違い、タンパク質などの特定の分子に対してのみ攻撃する特徴を持った治療薬のこと。特定のタンパク質分子が多く含まれる乳癌に対して、副作用を抑えつつ高い効果が期待できる一方、特定のタンパク質分子をほとんど含まない乳癌に対しては効果がありません。

※3) 腋窩リンパ節郭清術(えきかりんぱせつかくせいじゅつ):乳癌は腋の下(腋窩)のリンパ節に転移しやすい癌です。癌が転移していそうな複数のリンパ節を一塊(ひとかたまり)にして一定の範囲摘出してくることを「リンパ節郭清」と呼び、腋窩のリンパ節に対して行われた場合を、腋窩リンパ節郭清と呼びます。

※4) センチネルリンパ節生検術:癌がリンパ管を通じて「近くのリンパ節から転移する」性質を利用した診断方法。具体的には手術中に”最初に転移しうるリンパ節(センチネルリンパ節)”を見つけ出し、そのリンパ節の転移の有無により腋窩リンパ節郭清を行うか、行わないかを決めます。

※5) 補助化学療法:癌治療において、手術を主の治療と考えた場合「再発や転移の確率を下げることを目的」に術後行われる治療のことを補助療法と呼び、この補助療法として化学療法を用いた場合は特に「補助化学療法」と呼びます。

※6)ホルモン依存性:乳癌が女性ホルモンであるエストロゲンの影響により増殖しやすい特徴を持っているということ。これを逆手に取り、体内のエストロゲンの産生を抑えたり、エストロゲンの作用を阻害することで、乳癌の増殖を抑えたり転移、再発率の低減を目指します。

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